【株式会社LIFULL 代表取締役会長 井上高志さん】事業の根幹にあるべきなのは「利他の心」

兄や父とは違う、普通じゃない道に進み、一生かけて一大事業を成し遂げたい

―井上さんが起業を志したきっかけを教えてください。(近藤)

高校生ぐらいの時には、おぼろげながら将来、起業しようかなと考えていました。理由は単純で、年子の兄が頭も良く、ストレートで良い大学に進学し、大学卒業後は財閥系商社に入社するなど、順調にエリート街道を歩んでいたので、私はその後を追いかけていくのではなく、その前に躍り出たいという思いがあったからです。また、サラリーマンだった父親を見ていると、家や車を買って、子どもを育ててと、なんとなく40年後の姿が想像できてしまって。兄や父とは違う、普通じゃない道に進みたいと思うようになりました。

しかし、大学生になると将来のことも考えず、遊んでばかりいました。そんな時、就職活動中に受けたベンチャー企業で不採用になり、さらに当時お付き合いしていた彼女にも振られてしまったことで、このままではダメだと気づいたんです。それまでは何も成し遂げたことが1回も無い人生だったので、社会人になったら一生かけて一大事業を成し遂げよう、そのために5年以内に起業しようと決意しました。

ー起業した後、今まで一番嬉しかった出来事はありましたか?(近藤)

嬉しかった出来事はいろいろありますが、何か大きな出来事よりは些細な出来事の方が嬉しいと感じますね。

上場したことではなくて?(近藤)

そうですね。今でも覚えているのが、1番目の物件を買ってくれたお客様のことです。そのお客様はアメリカに駐在していた方で、日本に帰国した後は神奈川県の湘南に住みたいと考えていたそうです。そのために、海外からインターネットにアクセスしたところ(「HOME’S」(現:LIFULL HOME’S))に載っている物件しか出てこなかったそうです。それで、掲載していた物件に決めてくれたとのことでした。成約時に「井上君決まったよ」と不動産屋から電話がかかってきた時は、本当にうれしかったことを覚えています。

それは嬉しいですね。当時、まだ珍しいインターネットの世界の中で、本当にできるのかという不安もありつつ、今までやってきたことが本当に世の中の価値になったんだということを感じることができた瞬間だったんですね。(近藤)

手ごたえを感じた瞬間でした。あとは、創業間もない頃、インターネットという言葉すら知らない不動産屋の社長に、一生懸命「インターネットとはこういうもので、これから業界は変わります。HOME’Sというのがあって、いくらです」とインターネットの可能性について3時間くらい話をした時に、「君若いのに未来を考えてやっているんだね、その話に乗るよ」と言ってくれたお客様がいらっしゃいました。2、3番目のお客様なのですが、そこから28年間ずっとやめることなくLUFULL HOME’Sを使い続けてくれています。

私自身の体験だけでなく、今の従業員たちが各々体験したエピソードを大事にしながら良い仕事をしているという話を聞くのも嬉しいですね。

若いうちに様々な経験をし、世の中を明るい方向に変えていく起業家が増えてほしい

嬉しいことだけではなく、辛いこともある中で、起業家にとって「重要なこと」や「起業家の心得」は何だとお考えですか?(近藤)

稲盛和夫さんも仰っていますが、「利他の心」が大事だと考えています。LIFULLでは創業当時から社是に「利他主義」を掲げています。似た意味を持つ言葉に「近江商人の三方よし」という言葉があります。こちらの方がイメージしやすいかもしれません。世間も、自分の会社も、お客様も、皆がwin-winの状態になる商売こそ、良い商売であるという考え方を表したものです。今はステークホルダーが増えているため、「八方よし」と言った方がいいかもしれません。地球環境やコンシューマー、クライアント、取引先、パートナー、従業員、社会全体を含めて良い状態になっているということが大事だと考えています。

お金というのは、結局未来を創って実践していくためのガソリンでしかありません。ガソリンがないと目的地まで行けませんが、ガソリン代を稼ぐことが目的ではありません。そのバスに乗ってどこを目指すのかが重要です。多くの人たちが喜ぶことをするというのが事業の柱だと思います。

―根幹に「利他主義」があり、何事も八方よしになるよう心がけることで上手く進むということなんですね。(近藤)

ただし、お金が無くてもいいということではありません。お金が無ければ、事業も創れませんから。まずは土台としてお金を稼ぐ必要がありますが、お金を稼ぐことは目的ではなく、あくまで手段です。その上に事業があり、事業を通して世の中を変えたり、たくさんの人に喜ばれることをする。その次に人が育っていきます。リクルートは多くの人材を輩出していますが、そういう人たちが増えれば増えるほど世の中は良い方向に向かっていきますよね。お金儲けだけを考えている人よりも、お金も引っ張ってくることができ、事業もしっかり創ることができる、そして人も育てることができる人が起業家として増えていけば、世の中がどんどん明るい方向に向かっていくと思います。

―今はグローバルの時代です。若いうちから世界を見ることや起業することが今ブームになっていますが、若いうちにそういったことをすることは大切だと思いますか?(近藤)

どんどん見に行った方がいいでしょうね。世界ばかり見て、日本を知らないというのはだめですが、日本だけでなく世界のこともよく理解している状態が望ましいと考えています。世界で起きている出来事について歴史や民族、宗教など様々な観点から理解する。座学だけで分からなければ、実際に行って現地の人たちと話したりして理解する。このような体験がその人の血肉になります。そして、得た知識や経験をもとに日本と他の国々を比べた時、世界の在り方や変化が分かり、人が何を求めているのかがなんとなく掴めるようになってくると思います。 また、最近「中道」が大事だと考えるようになりました。「中道」とは仏教用語で、その場でベストな選択をすることを指しています。例えば、欲望や快楽に溺れている人と苦行しているお坊さんがいた場合、仏教では後者のような人でも悟りは開けない、幸せにはなれないそうです。では、2人の真ん中がいいのかというとそうではなく、幅広い視点から最適解を見つけることが大切であり、それが分かるようになると悟りに近づいていくと説いています。

そういう意味では、新しいアイデアも今までの経験の組み合わせでしかないですよね。より多くのことを体験して知識や経験の幅を広げ、物事をより深く理解しておくことが大事だということですね。(近藤)

現在の世界について見ていくとともに、今あるテクノロジーでこういうことや、ああいうことができるなというのを体系化していくと、世界中を平和にしたり、全員をウェルビーイングにする方法を考えられるようになります。だからこそ、若いうちに様々な経験をした方がいいですし、成功体験だけではなく失敗することで多くのことを学んでいってほしいと思います。

私の母が「全ての経験は糧になる。3日坊主でもいいから何でもしなさい。やってみて違うと思ったら止めればいいじゃない」とよく言っていました。私はその教えのもと、今までたくさんのことをやってきました。若いうちに世界を見るというのは、非常にいいと思います。 また、起業するとハードシングスを体験することができます。もちろん、失敗する機会もたくさんあります。悩むこともあるでしょう。そういった体験をすることで、人の気持ちをきちんと理解することができる人になれると思います。

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